パペットのはなし

フランス・ポリシネラ
フランス・ポリシネラ

 

 

 

人形劇について書いたエッセイのあれこれ。

 

「森と夜と世界の果てへの旅」デフ・パペットシアター・ひとみ

 11年4月10日/全労済ホール/スペース・ゼロにて

 

 久々に刺激的な人形劇を観た。

全体白を基調とした装置に、ユニークで色鮮やかな仮面ふうの人形が映えて美しい舞台だった。

次々と登場する奇妙奇天烈な生物たちが独特な世界を作り出しており、シンボリックなメイクをした人形の遣い手たちがジャンベのリズムにのって足を踏み鳴らし、踊りながら、人形を繰りながら、舞台をつとめる。

命なき物に命が吹き込まれ、あたかも魂を持つ存在のごとく振舞う人形は芸術的で魅力的な演劇表現の手段である。

その人形たちと人間、つまり、遣われる人形と遣う人間とのコラボレーションの演劇的可能性をあらためて感じさせた意欲的な舞台だった。

この作品の原作は、アフリカ・ナイジェリア出身の作家、エイモス・チュツオーラの「やし酒飲み」である。

70年に日本で翻訳出版され、それまで知らなかったアフリカの伝承文学の豊穣さに多くの読者が圧倒され、注目された作品だった。

内容は、死んだやし酒造りの男を探しに苦労なしで育った放蕩息子が、旅に出る話だが、それはとてつもない恐怖に満ちた人生という名の旅なのである。

主人公は、精霊たちの跋扈する未知の森林を奥深く分け入り、途中で娶った妻と共に、様々な危機を魔法という叡智で切り抜け、「死者の町」までようようたどりつき、ついには死んだやし酒造りに会って、諭され帰って来る。

未知なる自然から豊穣さや癒しを受け取りつつも、同時にとてつもない過酷さも受け取って生き抜いていく人間の生命力の強さが伝わってくる物語だ。

登場してくるのは、美しい紳士に変装した骸骨とか、すべてのものを食べ尽くす巨大赤ん坊とか、なにもかも赤に染まってしまった町とか、ダンスとかドラムとかソングという擬人化された音とか・・・。

一見、奇想天外なものばかりなのだが、そのひとつひとつが現代にも通じるさまざまな事柄の暗喩として読み解ける。

この個性的な言葉で表現された原作の世界を脚色し、豊かな舞台空間として視覚化するのは、実に冒険に満ちた試みであったにちがいない。

そして、なにより、これを表現するとしたら人形劇をおいて他にないのである。

デフ・パぺットシアターが、この作品の舞台化にチャレンジした勇気には拍手を送りたいし、言葉を超えた表現への創造を志す彼らの演劇活動にふさわしい演目でもあるだろう。

惜しむらくは、エイモス・チュツオーラの描くあの底知れぬ生命エネルギーに満ちた世界に比して、人形を繰る演者にも音楽にもダンスにもまだまだ、迫力が不足していることだ。

公演数を重ねることで、次第に憑き物がつき、さらに大胆な舞台空間へと昇華して、人形劇の多様な表現の魅力を最大限に伝えてもらいたいと思った。